我楽多箱 第一話「伝説の始まり」
ここはあかつき大学付属高校。
勉学で有名な上、スポーツでも
全国でもトップクラスの高校だ。
新入学生が次々と入っていく。
その中にひときわ目立つ、赤髪の少年がいた。
赤髪の少年を避けている生徒もいた。
不良だと思ったのだろう。
何人かはひそひそ話で少年の方を見ながら話したりしている。
「さっさと済ませて帰りてーな、かったりぃんだよな。始業式なんて」
この言動が拍車を掛けたのか、少年を避ける生徒が増えたのであった。

体育館ではすでに多くの生徒が集まっていた。
ガヤガヤとざわつく辺りの事などまるで気にしない少年がいた。
「どこにいるんだ?祐一郎のヤツは…」
先ほどの少年が体育館を見回すが、すぐに見回すのを止めた。
捜している人は見つからなかったらしい。
「にしてもアイツ初日から一体どこに……」
ふと、窓の外を見た。
居た。
体育館の薄汚れた窓ガラスの向こうに。
「あ、アイツあんな所に…」
木の下で幸せそうに眠っていた。
「ハハ、ありゃ遅刻だな」
もう、アキラメがつき、ゆっくりと席に座り直した。

教室では、始業式を終えた生徒達が戻りだし、
「えーと、じゃあ…名前を確認する意味でも出席をとるぞ。
 えーと…まず、新井!新井星也!」
「はーい」
先ほどの赤い髪の少年だった。
赤髪は流石に目立ったらしく、すぐさまに男女問わず批評が飛び交っていた。
「なに、あの人?髪の毛赤く染めてるよ」
「ホント…でも、結構カッコいいじゃない?」
「まあね〜…でも、やっぱ怖そうだよぉ」
「そう言えば、なんか、入学式で遅刻した
 人とも親しそうだったしね」

「髪真っ赤だぜ、やばそうだな、アイツ」
「オウ、でもどっかで見たことないか…?」
「ん?どこで…?」
「…プロ野球選手…いや、気のせいだろ」
・
・
・
「よし、これで全員だろう…汐瀬を除いてな」
やれやれといって顔で先生が出席簿を閉じた。
ちなみに汐瀬とは先ほど外で寝ていた少年の事だ。
名前は祐一郎。星也とは古くからの仲である。
「…そうだ、新井。お前汐瀬と知り合いみたいだな。
 ちょっと体育館まで迎えにいってやれ。多分まだ寝てるだろ」
「ああ…はい、分かりました」
そう言って、ゆっくりと星也は教室から出ていった。

−数分後−
「汐瀬!次から居眠りなんかするんじゃないぞ!」
怒濤のようにふりそそぐ先生の声に
教室中からクスクス笑い声が漏れた。
「いや、あのですねぇ、ちょっと昨日寝不足でして、
 それよりも先生もっとゆとりある教育をですね…」
祐一郎が軽くおどけるような感じでセリフを吐いた。
「バカモン!もう、良い。静かに座っとれ」
「あ、はい。すんません、ホントに」
「お前はアホか」
星也が小声で祐一郎に話しかける。
「うるせーなー…にしてもお前、俺が気持ちよーく
 体育館で寝てる時にかかと落としを決めるとはどういう事だ?!」
「お前はよっぽど強く蹴ってやらねーと起きないからな、だからやった」
「お前のせいでこれ以上馬鹿になったらどうするんだっつの!」
「はいはい、それはすいませんでした」
「分かってるのか?全く…」

−放課後−
星也はクラスの数人と会話を交わしていた。
最初はみな怯えていたようだが、星也の明るい性格も手伝って、
もはやその事を気にする者も居なくなっていた。
話題はまさに、星也の中学校の頃の話だった。
「中学の時に、響介って奴がいたんだ。
 そんで、俺と祐一郎がさぁ…」
星也は話し方がとても上手い。どんどん相手に興味を持たせる。
「ハハ、マジかよ、それ」
「そう言えば星也君、なんで髪染めてるの?」
「んー…勢いかな?」
「へ〜真っ赤っかだもんね、最初ビックリしたよ」
「そうか?やっぱ、赤ってのはオカシイかなぁ…?」
「ん〜…でも、慣れると逆に赤の方が良いよね」
「そうか?」
「今度俺も赤に染めるかな〜」
その男子が髪の毛を撫でながら話した。
「お前は絶対似合わん」
「ちぇっ」
笑いがその場に巻き起こった。
「おっと…おれ、ちょっと野球部見に行きたいんだった」
星也がふと時計を見上げて喋りだした。
時計は4時を回っていた。
「おう、じゃあな。結構お前いい奴だな」
「俺はいつでも良い奴だぜ」
星也がカバンを背負いながら教室を出てった。
「じゃーね、星也君。また明日」
「ういーっす」

−職員室−
「失礼しまーす」
扉を開けながら星也が言った。
担任の先生が湯飲みを机に置いてこちらを向いた。
「ん?どうした?新井」
「いや…永井知子先生はいますか?」
「永井先生か?えーっと・・・そうだな、今は
 二軍用グラウンドにいるはずだが」
「二軍用っすか。分かりました、ありがとうございます」

−二軍用グラウンド−
「えーっと……どこにいるんだ?
 二軍用とはいえかなり広いからな……」
その時、二人の人影が見えた。
すこし、歩いて、二人に近づく。先生と生徒の様だ。
「あのー……永井先生ですか?」
「え?あ、はい。私永井ですが…」
永井先生の髪は肩まで伸びて、薄く茶色がかかっていた。
永井先生がジッと星也の事を見つめだした。
「あ、あのー?」
「……もしかして君さー、親戚かどっかに新井星一って人いる?」
「あ、はい……新井星一は俺の父さんです」
「ああ、やっぱり?似てるもん、目がね。髪は赤くなかったけど」
永井先生はジッと星也の方を見つめた。
「そ、そうですか」
「で、私に何の用?」
「あ、いや。父さんがあいさつしとけって……」
「そう、これからよろしくね」
先生はニコッと笑って髪を触った。
済んだ目だった事が何より印象的だった。

星也が一軍用グラウンドへ向かう途中に、
先ほど永井先生と会話をしていた女生徒が話しかけてきた。
「ねえねえ、君のお父さんが新井星一って本当?」
束ねた水色の髪がやわらかく揺れている。
「え?ああ、もちろん」
「そうなんだ〜、私野球が大好きで・・・
 って、君遅刻クンの友達だった人じゃない」
「遅刻クン……って祐一郎の事か?」
先ほどの事件でもう、クラスで
星也と祐一郎の事を知らない者はいなかった。
「そうそう。いきなり遅刻だもんねぇ。ビックリしたよ」
「まあな。ってそれを知ってるってことは
 お前、俺と同じクラスか?俺、名前を覚えるのはニガテでな」
「ウン、私、瑞川明奈(みずかわあきな)。ヨロシク。
 席はね。真ん中の列の右がわの後ろの方だよ」
「ああ、ヨロシク……で?父さんがどうした?」
「あ、ああ。新井星一は私が……ウン、9歳の時に
 なんか、ケガから復帰したってお父さんが騒いでたから
 私もその時に試合をTVでだけど見たんだよね。
 そしたら、凄いかっこよくてさ、真剣で……ちょっと憧れちゃって
 それから私すっかり野球に取り憑かれちゃった!」
「9歳の時……か。そうか、あの時父さんケガしてたっけな」
9年前、星一は三年振りに怪我から復活し、
広島東洋カープを日本一に導いた。
その時の熱き闘志は多くの野球ファンの心をひくものとなった。
「ねえ、君はどこの球団のファン?やっぱりカープ?」
明奈がそういえば、と言うような感じで話かけた。
「おれ?俺は……ダイエーかな」
「えー!ダイエー?!カープじゃないの!?」
「んー……なんか、身内がいるチームってのは
 芯から応援したくはないんだよなぁ……」
「ふ〜ん、そういうもんなの。私には一生わからないわ。
 ところで星也君は、ポジションどこなの?」
「ん?ああ、俺は一応ピッチャーかな。キャッチャーも出来るけど」
「え?じゃ、ちょっと投げてみてよ」
明奈がカバンからボールを取り出した。
「え?勝手にグラウンド使う訳にも…」
「三球だけで良いよ。私がバッターボックスに立つから。ね、お願い♪」
明奈が声色を変えて星也に頼んだ。
「…ああ、分かった、分かったよ。その変わり三球だけな」
星也が自分のカバンからグローブを取り出す。
「ありがと♪じゃあ、お願い」
明奈がゆっくりとバッターボックスに入って、足場を固める。
何度か足を動かしてバットを構えた。
「準備OKだよ!」
「…ふう…じゃ、行くぞ」
星也が投球モーションに入り、ボールを投げた。
明奈(…速い!)
バシッ!
ボールは球状後ろのフェンスにぶつかって、明奈の足下に転がってくる。
「速いね。140ちょっとくらい?今の」
明奈がボールを星也に投げた。
「う〜ん…まあ、そんな所かな?今のは」
星也がボールを受け取って、握りを確認する。
「二球目、行くぞ!インコース低めストレートだ!」
「え、え?」
星也の投球モーションが終わると、ボールはうなりをあげて飛んでくる。
インコース低め、どんぴしゃだった。
ブン!
バシッ!
空振りだった。ボールは明奈の1m前方に転がっている。
「良いコントロールだね、それに速いや」
明奈が少し歩いてボールをとり、星也に投げた。
「これだけが取り柄なんでな。次はど真ん中低めに行くぞ」
三球目が星也から繰り出される。ど真ん中低め。星也の予告通りだった。
明奈は一生懸命食らいつこうとした。
が、予想以上に球のスピードが速かった。
ブン!
バシッ!!
また空振りだった。ボールは明奈の2〜3m先に転がっている。
「…最初の球が精一杯の速さだと思ったんだけどね。
 ボールの跳ね返り具合が証拠だね。最後のは150なかば
 出てたんじゃないの?」
「まあ、本気だったからな」
星也が自分でボールを取りにいく。
「でも、凄いね、あの速さでもコントロールが落ちてない。
 プロ並み…いや、遙かにプロ以上のコントロールだったね」
「スピードとコントロールは俺の生命線だからな」
「私、ミートには自信があったんだけどなぁ…
 全然降り遅れちゃった」
「でも、バットコースは完璧だったからな。
 次は打たれそうだな…って俺ちょっと待ち合わせ
 してるんだった。じゃあな。また明日」
「そう、じゃあね」
明奈は校門の方へと歩き出した。
「…祐一郎のヤツ問題起こしてねぇだろうなぁ…」
「?なんかいった?」
明奈が足を止めて振り返る。
「いや、なんでもない。じゃあな」
足早に星也はグラウンドを駆けだしていった。
最悪の結果を予想しながら。
「喧嘩してたらかかと落としじゃすまさねーぞ、アイツ…」
星也は握り拳を固く握りながら走り出すのだった。
「そう言えば…」
ふと、思う事があった。
「なんで、アイツボールなんか持ってたんだ?」