我楽多箱の夢の中第二話「」
−昼休み−
教室でぼーっとしてる所を明奈が話しかけてきた。
「星也〜生きてる〜?」
「なんだ、お前か」
「聞いたわよ、祐一郎君、早速上級生と喧嘩したんだってね」
「・・・なんだ、知ってたのか」
「ちょっと友達に聞いたからね」
「友達……ねぇ」
星也が素っ気なく答えた。
「"遅刻クン"って言ったらすぐ分かったわよ。
 彼、もうすっかり有名人ね」
「ハハ、まあ、それがアイツの良いところなんじゃねーの?
 で?何か話に来たんだろ?」
「え?よく分かるね・・」
明奈は動揺を隠せてなかった。
「まあな」
「あのね、実は私野球部に入りたいんだけど・・・」
「野球部?」
「うん・・・やっぱり女じゃ駄目かなぁ?」
「そんなこと無いと思うけどなぁ・・・
 ここの高校実力重視見たいだし。
 ってーか、それでボール持ってたのか」
「そう?じゃあ、ちょっと放課後、一緒に行ってくれない!?」
明奈が声の調子を変えて、せきたてた。
「ちょっと待て、なんでオレがついてかなきゃなんねーんだ?」
「いいじゃないの。乗りかかった船。一緒にお願い!」
「ったく…」
星也が椅子を動かして立ち上がった。
でも、決して悪くない気分だった。

−職員室−
「私が……野球部の顧問の千石だ。
 あー…なんだ?なんの様で来たんだ?」
「あの…コイツ、瑞川明奈を野球部に入れてやってくれませんか?」
「駄目だ」
千石は間髪いれずに答えた。
「……何故ですか!?」
「女はいれん」
「ここの野球部は実力重視だと聞きましたが、
 実力さえあればいいのではないですか?」
「駄目だ。ウチは名門校だからな。女子部員なんて認めない」
「…何故っ!」
星也が机を叩いた。机の上のカップに入ったコーヒーが波を立てる。
「・・・お前、カープの新井星一の息子だろ?」
千石は、話題を切り替えた。
「!?」
「随分とちやほやされてる様だが、
 実際たいした事ないんじゃないのか?
 みんなが凄いとはやしたてるから野手も萎縮して・・・」
その瞬間、星也の表情が変わった。
「……失礼しました!いくぞ明奈、話していたって無駄だ」
「あ…」
星也は明奈の手を引っ張って職員室からかけ出た。
「……フン」
千石は手を伸ばし、コーヒーを口にした。

−廊下−
「すまん、明奈」
足早に歩きながら、星也が言った。
「え?」
「ついカッとなって……交渉失敗だ。本当にすまん」
「いいのよ……あれだけ言われたら誰だって…」
「いや、あれはお前の事を話に行ったんだ。
 オレの私情を挟んだのが悪かったんだ…」
星也が足を止めた。
「……じゃあ、私帰るね。今日は…ありがとう」
明奈が昇降口の方へと向かいだした。
「ああ、……悪かったな」
明奈が曲がり角を曲がり、見えなくなった。
廊下には星也と、夕焼けの赤だけが残っていた。

下校時間 1−A

教室で二人の青年が何かを話していた。
その二人は汐瀬祐一郎と新井星也だった。
「……へ?」
星也の言葉に祐一郎が間の抜けた返事をした。
「だから悪ぃけど今日は先帰ってくれ。
 オレやんなきゃいけねーことがあるから」
「ふーん。またなんか熱中してるのか。
 ま、俺には関係ないことだな。んじゃな星也」
祐一郎がカバンをかかげた。
「悪ぃな。祐一郎」
そう言って星也が祐一郎に笑いかけた。
その星也に祐一郎が向こうを向いたまま右手を挙げて返事をした。
「……女の野球部員は認めない……か」
祐一郎が見えなくなってから、星也がそうつぶやいた
・
・
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−駅−
浅いため息を交えて、星也はホームに立っていた。
女の野球部員は認めないという千石の言葉。
明奈の役に立てなかった自分。
それぞれに苛立ちを感じていた。
そんな星也の苛立ちをせきとめるかのように
電車がホームに滑り込んできた。
ゆっくりと足を運んで電車に乗り込むと、
いつもは冷房が軽く効いているはずの車内が涼しく無かった。
ふと、星也は先ほどから軽く雨が降り出した事を思い出した。
電車側が雨で冷える事に気を使い、冷房を消したのだろうか。
湿度が高まった車内。苛立ちが余計に高まってくる。
やはり最近はついてない。
そう思いながら灰色の空が広がる窓の外を眺めた。
その時、隣の車両から、ガラガラと音をたてて誰かが入ってきた。
Yシャツを出している。見覚えのある顔だった。
「星也か?」
星也の事を見てすぐさま話しかけた。
「…あぁ、もしかして、佐々木か?」
「おう、いや懐かしいな!つってもまだ一ヶ月ほどか」
「ああ、そうだな…」
「どうだ?祐一郎の方は?」
佐々木とは星也の中学校の時のクラスメート。
祐一郎とも勿論仲が良かった。
「いやぁ、相変わらずさ」
「それより、お前なんで電車に乗ってるんだ?
 あかつきだろう?電車なんか使わなくてもいいじゃないか」
「まあ、ちょっと野球用品を買いに隣町にな」
「こんな時間にか?」
「あぁ。そろえるなら早めが良い」
「やっぱり、野球に関しては熱心なようで」
「なんだよ、野球に関してはとは」
しばらく談義が続くと少しの間沈黙が続いた。
星也は吊革につかまりながらぼんやりと佐々木の顔を見ていた。
一ヶ月前までは毎日見ていた顔。
しかし、どことなく見たことの無い顔に見えた。
みんな変わっていくのか。
そんな想いが星也の中で渦巻いている。
卒業式の時はまた遭えると思い、哀しみはまるで無かった。
だが、こうして、久しぶりに友達に会うだけで、
まるで別人の様な感じまで受けてしまう。
何年も後に会った時に、同じ様に接する事は出来るのだろうか。
もう、あの時のメンツが揃って授業─なんてのは無いのだ。
そう思うと星也の心は再び沈んでいた。

−職員室−
ノックして職員室へ入った星也は一番近くにいた先生に話しかけた。
「あのー……永井先生いますか?」
「ああ、ちょっと待って。永井先生ー!
 新井星也が来てますよー」
「あ、はい!」
永井先生がノートパソコンを閉じて星也の方へ来た。
「どうしたの?新井君。急に……」
「実は……」
「・・・」
深刻な星也の表情を読みとった様だ。
「ちょっとここじゃアレみたいね。屋上へ行きましょう」

−屋上−
春の屋上は、風が穏やかに吹き、星也の心情とまるで逆だった。
「そういうこと……ね。千石先生は堅物だから」
「でも、オレも悪かった」
「え?」
「あいつ……父さんが実際大したことないだとか、
 みんなが凄いとはやしたてるから野手も萎縮して……とか」
「ちょっ…それは聞き捨てならないわね。
 私は、中学校の頃の星一しか知らないけど、
 少なくともあれは野手が萎縮しようとしまいと、
 凄い選手だったわ……
 わかったわ。私も協力してあげる」
「え?」
「女子の野球部入部を認めさせる事」
「……ありがとうございます」
「まずは……あの千石先生をいかに説得するか…
 やっぱり……質より数ね、教員の立場なら」
「質より……数?」
「そうねぇ……まず、署名ね。全校生徒の
 1/2……いや、2/3以上あれば断れないはずよ。
 最も、確実という訳では無いけどね」
「2/3……」
「そう、ガンバッテ集めなさい!私に協力の出来る事があったらするわ!」
「はい!」