我楽多箱第三話 無下な断り
−星也の家−
永井先生と話したその夜、星也は部屋で本を読んでいた。
すると、突然星一がドアを開けて入ってきた。
「お〜っす。どうだ?星也。新しい学校は?」
「と、父さん?なんで?今はシーズン中だろ?」
星也は読んでいた本をその場に置いた。
「いや、ほら。昨日から巨人戦だろ?
   んで、近くまで来たからゆっくり休んだほうがいいかな…てな。
   勿論、球団には許可を貰ってきたぞ。
   あ、星満もいるから」
「やあ、星也君。お邪魔するよ」
星満が後ろから割り込んできた。
「あ、星満さん。いえいえ。それより、
   昨日の猪狩さんから打ったHR、凄かったですね!
   看板に直撃だったじゃないですか!」
「ああ、あれか。いや・・・・まあ、
   猪狩のストレートは抵抗を大きくするストレートだから
   打ちやすい分、飛びにくいんだな。
   だから思いっきり振ったんだ。そしたらあの結果さ」
「でも、やっぱ凄いですね。4打数4安打3打点ですもん。
   父さんなんか4打数2安打だっけ?
   もうちょっと精進したら?」
「昨日はちょっと、疲れ気味だったんだよ。
   まーったく、星也のヤツ。ちっと大きくなったと
   思ったら全くナマイキなヤツで・・・・」
「いやいや、お前の高校時代もこんなんだったぞ」
「いや、そんなことは…それより、星也。
   お前変化球は覚えないのか?確かにお前の
   ストレートはプロでも通用するくらいだろうけど、
   ストレート一本じゃいずれ打たれちまうぞ?」
「いや…いい。俺はこのストレートに誇りを持っているんだ。
   変化球を覚えるとしたら、それはこのストレートが
   完璧に負けた時。その時だけだ」
「…そうか」
「じゃあ、さっさと休もうぜ。明日はきっと明彦だ。たっぷり体を休めないとな」
「あ、父さん」
「なんだ?」
「・・・」
星也は迷った。今日の千石の言葉を言うか、言わないか。
「いや・・・なんでもない」
しかし、止めた。明日は大事な試合なのだ。
つまらないことを言って調子を狂わせるのも悪い。
それに言った所でどうにかなるとも思えなかった。
なんともやりきれない気持ちのまま、星也は寝床についた。

−昼休み−
翌日、教室では明奈と星也が会話を交わしていた。
「…と、いうわけで署名を集めるんだよ」
「署名?」
「そ。いくらあのオッサンでも2/3くらい署名を
   集めたらぜってー承諾せざるを得ない…って言ってたからさ」
「2/3も集まるかなぁ・・・」
「ま、こういってても始まらないからな。とにかく集めよう。
   全校生徒総数がおよそ1000。つまり670程集めれば
   ほとんどOKって訳だな」
「670・・・わかった。やってみましょ」
その日から二人の署名活動が始まった。

−廊下−
「なあなあ。君。女子も野球部に入って良いと思うかい?」
「女がぁ?大丈夫なのか?それで・・・・だいたい女がやきゅ・・・」
星也の手がぽきぽき鳴りだした。
「いや、あ!いいじゃないかな!ウン!これからは
   男女関係なく暮らしていく時代だと思うよ!」
「そうか、さっすが君はよく分かってる!
   さ、この署名用紙に名前を書いておくれ」
「は、はい・・・」
とまあ、この様な調子でだいたいの一年生を落とし、
後は野球ファンを数十人。
特に、星一のファンの人は快く署名してくれた。
そしてその日の放課後、ついに2/3。いや、それ以上の署名を集めた。

−職員室−
「千石先生」
「なんだ、お前か。」
「全校生徒の2/3の署名を集めました。
   女子の野球部入部を許して貰えませんか?」
星也が紙束を千石の前に突き出す。
「駄目だ」
「・・・」
千石先生「署名がいくらあろうと、規則は規則だ。
     さ、もう放課後だ。さっさとグラウンドへ行け」
「でも、2/3の生徒は・・・」
「黙れ。野球部の顧問は私だ。生徒でもなければ、
   他のどの先生方でもない」
「・・・・」

−屋上−
屋上のドアを開け、屋上に出る星也。
明奈と永井先生がすぐに近寄ってきた。
「どうだった!?」
「・・・・・駄目だった・・・・」
「そう・・・・あんなに集めても無理だったのね・・・
   もうしょうがないかな。ありがとう、星也」
「う〜ん・・・こうなったらどうすればいいんでしょうねぇ・・・。
 上の方から言われれば完全に負けるはずなんだけど、
 校長先生だけじゃあねぇ・・・・・。それこそ高野連から・・・・
 ん?・・・・・もしかしたら」
「ん?」
「もしかしたら・・・あの千石先生を動かせるかもしれないわ」
「どうやって?」
「まあ、待って。確実性が無いだけに、
 ちゃんと実行可能か確認したら言うわ」
「そう・・・ですか」
「まあ、とりあえず星也君は部活ね。
 明奈さんは・・・ちょっと私につきあってくれるかしら?」
「あ、はい。わかりました。じゃあね、星也。部活頑張って」
「ああ・・・済まなかったな。明奈」
「いいのよ、あんなに頑張ってくれたんだもん」
永井先生は明奈といっしょに出ていった。

−グラウンド−
星也はグラウンドへ向かい歩き出した。
「う〜ん……ったくあの先生も頑固だよなぁ……
 それにしても永井先生の考えていた事って…」
「……あ、ホントだ。おーい、星也ー」
祐一郎がコチラに気づき呼びかけた。。
「……あ、祐一郎…」
返事をした星也は明らかに暗かった。
「どうしたんだよ星也。なんか暗いぜ」
「ああ……ちょっと……な」
「何が……あったんだ?」
祐一郎が真面目な顔で星也に問いつめる。
すると星也がフッと笑った。
「ここはな。女性野球部員は……認めないんだとさ」
「……えっ……」
祐一郎が小さく漏らし、佳那の方を向いた。