我楽多箱第四話「三球勝負」
「どういうことなんだよ!星也!」
祐一郎が星也につかみかかって言った。
「監督が認めねぇんだ!オレに聞くな!」
「……ッ!」
星也の強い声に祐一郎がうつむいた。
星也が本気で怒っていることを祐一郎が感じた。
しばらくの間の後、星也が祐一郎の横を通り過ぎた。
「俺が……俺が言ってきてやるよ」
星也に背を向けたまま祐一郎が拳を握りながら言った。
「………ああ。悪かったな…怒鳴ったりして」
星也が後ろを向いたまま言った。
「……畜生……これがあかつき高校か……」
祐一郎は何かに怒って走り出した。
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星也が祐一郎の行く道を見ていると、
その方向から、青い髪をした先輩が歩いてきた。
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「やあ」
爽やかな顔で星也に話しかける。
「ああ、どうも、こんにちは」
ぶっきらぼうだったかもしれない。と星也は思った。
野球部への苛立ちを隠しきれなかったせいだろう。
しかし、相手はそんな事を気にせずに話しかける。
「ボクの名前は一ノ瀬。君の実力、試させて貰えないかな?」
「え?」
随分好戦的な人だ。と思った。
いきなり実力を試させてなんて普通言えない。
「ボクが打つ。君が投げる。どうだい?」
一ノ瀬がボールを握っている。
「そんな、一ノ瀬先輩!先輩がわざわざ
 そんなヤツの相手などしなくても・・・」
辺りに居た選手が大きな声で叫んだ。
「いいんだ」
相変わらず爽やかな笑顔だった。
「ボクがやってみたい。それだけなんだ。
 いいかな?新井星也君」
「はぁ・・・まあ、いいですけど」
「三球勝負で行こう。ファーボールでノーカウントでいい。
 抑えたら、君の勝ち。安打になったら・・・・ボクの勝ちだ」
一ノ瀬は軽くボールを投げた。ゆっくりと弧を描いて星也の手に渡る。
「わかりました」
星也がマウンドに着く。
「サウスポーか・・・」
そう言ったとたん、一ノ瀬先輩の表情から
甘さが消えた。厳しく、そして、真剣な表情になった。
星也が第一球を投げた。
(!・・速い!)
結果は、見逃しのストライク。
勝負を見ていた、他の選手がざわつきだした。
「おい・・・今の・・・速かったよな?」
「誰か!スピードガン持ってこい!早く!!」
星也がプレートに足をかける。
そして、二球目を・・・投げた。
また、ストレート。一ノ瀬も手を出してきた。
(く・・・凄い伸びだ。手元でかなり・・・・)
空振りのストライク。コースはど真ん中だった。
(空振り…やれやれ…)
一ノ瀬が空を見上げる。
「オイ、今の155だぞ!」
スピードガンの表示を見て、選手が叫んだ。
「155?!そんな・・・速すぎる」
一ノ瀬が再び構え直した。
「どうぞ」
そして、星也が三球目を投げた。
(・・・155という所か・・また、ストレート…)
その瞬間、ボールが急に速くなった。
(しまった!凄い伸びだ・・クソッ!)
一ノ瀬は体勢を崩しながらボールにミートさせた。
ボールは星也の頭の上を通り、センターを越えた。
ヒットだった。
「・・・ふう。どうやら勝負はボクの勝ちの様だね」
一ノ瀬がバットを下級生に渡した。
「・・・」
星也はボールが飛んでいった方をひたすらに見ていた。
「オイ、今ボールが凄い速くなんなかったか?」
「お前アホか。155で更に伸びるなんて・・・あるわけない」
「なるほど。君の実力は十分に分かった。
 それじゃあボクは練習に戻るよ、相手をしてくれてありがとう」
一ノ瀬は元来た道を辿り、一軍練習場へ戻っていった。

次の瞬間、星也の元に人が集まってきた。
「凄いな、星也!一ノ瀬先輩から2ストライクも取るなんて!」
星也は上の空だった。
「オイ、星也?どうしたんだ?星也」
「打たれた」
星也がボソッと言った。
「へ?」
「初めて投げた相手にあのストレートを打たれたのは初めてだ」
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−22:40 星也宅−
「ただいま〜…」
星也が靴を脱いで家に上がった。
「遅い!」
"おかえり"と言うよりも早くその言葉が飛んできた。
「いやぁ、ちょっと祐一郎ン家に…」
「そんな事分かってるわよ。アンタが遅くなる時は祐一郎君家」
振り返って光はリビングへと戻っていった。
「へへ、じゃあ話が早いって事で」
そう言って星也はそそくさと部屋に入った。

「ふう…」
星也はベットに倒れるように飛び込んだ。
体が上下に二三度揺れる。
ベットの上に寝転がっていると、色々な事が星也の脳裏に浮かんだ。
楽しい思いでもあれば、悲しい思い出もあった。
不思議な何かに包まれているような感触を星也は受けていた。
ふと、携帯電話が鳴った。
星也には相手の察しが付いた。祐一郎だ。
「はい」
『おう、俺だよ』
やはり、祐一郎だった。
「どうよ?」
『バッチリ。すぐには無理だろーけど取り合ってくれるってよ』
「そうか、じゃあ期待して置く…かな」
『おう、じゃあまた明日な』
「うぃーっす」
ツーツーと電話から聞こえてきた。
星也はその音を聞いてから携帯をたたんだ。
そして、その時のカチャッというどこか寂しい音を聞いて、
星也は布団の中に潜り込んだ。