我楽多箱第五話「再び三球勝負」
あれからしばらく祐一郎と星也は
チョコチョコとしか野球部に顔を出さなかった。
そしていつしか5月になっていた。

あかつき高校野球部2軍グラウンド。
「汐瀬と新井は………また休みか」
「何考えてんでしょうね。あいつら」
二宮がキツい目つきで言う。
「それに今年の部員はやる気があるのか?
   文句なしに合格したのがたったの3人とは……
   しかもそのうち2人が休み……」
千石はため息をついた。
すると茶髪の部員が口を開いた。
「このボクと同じ場所で練習するのを
 ふさわしくないとでも思ったんじゃないですか?」
「フン」
二宮はその青年の言葉を鼻で笑った。
「あまり調子に乗るんじゃねーぞ。
 ……………猪狩」
   
−校門−
「ふう……」
(ぽこっ)
星也の頭に衝撃が走った。
「いって……」
「"いって……"じゃないわよ。星也、部活出てるの?」
「……明奈か、部活は……しばらく出ない」
「出ないってあんた……私の分まで頑張ってよ!」
「なんだ、お前。部活入るの諦めたのか?」
「うん……でも、もう平気!野球部なんて
 入らなくたって、なんとかなるよ!」
「ふ〜ん……本当か?それ」
「……うん」
「まあ、お前の人生、お前がどう生きようと勝手だがな……
 そういや、今日、カープと横浜がナイトゲームだったな…
 見てくか?晩飯くらいだったらオレが作れるし……」
「え?いいの?」
「よし、決定!」

−星也の部屋−
ビールのCMが流れた後、実況の声がテレビから流れてきた。
『さあ、広島東洋カープ対横浜ベイスターズ第三回戦、
 まもなくプレイボールです!!』
「お、始まった始まった」
星也がベットに腰を下ろした。ベットが揺れた。
明奈もそれにならってベットに腰を下ろす。
横浜の選手が、守備位置に着く。ピッチャーは大和だった。
「プレイボール」の声が鳴り響いた。
途端にスタンドから応援の太鼓が鳴り響きだした。
テレビは打席で軽くバットを振る星一の姿を映している。
星一の姿が映ると、画面下に今シーズンの成績が表示される。
打率.327 打点32 本塁打9。
打者としても上等な数字だ。
『一番、ピッチャー新井星一』
その瞬間、球場から歓声がわき上がる。
大和の第一球、カーブのまがりばなを星一が叩いた。
『打ったー!新井、初球から打ってきました!
 大きい、大きい!グングン伸びていきます!』
ボールが正面スタンドのスコアボードに激突した。
『入りました、新井、今シーズン10号ソロホームラン!
 これでHR数が二桁になりました!1−0!
 あっという間にカープ先制点をあげました!』
「凄い…」
明奈が声を漏らした。
「あのカーブをいきなりスタンドへ運んだ……」
「ああ、あのカーブは……オレも打てないな」
・
・
・
『ゲームセット!3−2、カープ4連勝!
 新井、ランナー1・2塁のピンチを切り抜けて、
 これで6勝目!無傷の六連勝です!
 それでは、ヒーローインタビューに入ります。
 今日のヒーローは勿論、投打に活躍した……』
ブツッ
星也がベットから立ち上がってスイッチを消した。
アナウンサーの顔が一瞬ゆがむと、テレビの画面が真っ暗になった。
「え?見ないの?ヒーローインタビュー…」
「ああ、構わない」
「ふうん……」
テレビの消えた部屋に静寂が訪れる。
「……お前さ、本当はやっぱ野球部に入って野球やりたいんだろ?」
静寂を破って明奈の横に星也が座った。
「え…そんな……こと……」
「今の試合を見てるお前の様子を見て分かった。やりたいんだろ?野球」
「……まあ、本当はやりたいっていうのあるけど…しょがないよ」
「……」
「じゃあ、私帰るね、ありがとう。また明日、学校で」
そう言うと明奈は星也の部屋を出ていった。
「………やっぱやるっきゃねーな」

−翌日 バッティングセンター−
バットの音が鳴り響き、ボールがはじけ飛んだ。
ホームランの的に星也のボールがつきささる。
「ふう、とりあえずバッティングの調子は悪くはねーな」
「やあ、新井君」
バットを置くと、ふと後ろから声がした。
「なんだ、翔か。何やってんだ?こんな所で、部活はどうしたよ?」
翔はバットを背中に背負っていた。
「最近まで部活をさぼっていた人にそんな事言われたく無いね」
「はいはい。言いたい事はそれだけですか?」
「君はあの新井星一の息子だろう?」
「………まあな」
「ボクは巨人のエース、猪狩守の息子だ」
「ふうん…じゃあなんだ?お前は自分の父さんが目標だっていうのか?」
「違う。パパの事は確かに尊敬してるが、所詮通過点に過ぎない。
 ボクが目指すのはもっと上の方だ」
「もっと…上?」
「ああ、そうだ。ボクはもっと上を目指す。誰よりも高い所へ行くんだ」
「………」
「この高校生活も所詮通過点だ」
「じゃあ、なんだ?お前は甲子園には行かないってうのか?」
「それは違う。通過点は通過点なりに良い結果も欲しいんだ」
「通過点…だと?」
「ああ、甲子園なんて通過点だ。ボクの求める物はもっと先にある」
「なんだと、てめえ…」
「ボクの意見に文句があるのなら、勝負をしないか?」
「勝負…だと?」
「そうだ。三球勝負がいいな」
翔が背中のバットケースから、バットを取り出した。