我楽多箱 第6話「ひったくり」

−河原− 「三球勝負だと?」 「そうだ」 翔が足でホームベースを書いた。 「お前が投げる。ボクが打つ。それでいいだろ?」 翔はバットをくるくる遊ぶように回しながら言った。 「まあ、いいっつっちゃぁ、良いけどよ…」 「じゃあ、決定だ。ほら、ボールだ。ちゃんと投げろよ。  失投なんかでボクの大事な頭にぶつけたら大変だからね」 翔がバックの中からボールをとりだした。 「失投…だと?」 失投という言葉に星也が反応した。 コントロールに自身を持っている星也だっただけに、 その言葉が頭に来たのだった。 「そう。気を付けてくれよ」 「へっ、オレが失投なんかするかよ。  そっちこそ、三振なんかでオレをがっかりさせるなよ」 星也が皮肉っぽく言い返した。 「ボクが三振なんてそれこそありえない。  さあ、投げてみてくれよ」 翔はすでに打撃モーションの構えに入っていた。 「……」 少し納得の行かない顔で星也はセットポジションに入った。 星也の左腕からボールが繰り出された。 会心の出来…とまでは行かないまでも、なかなかの球だった。 翔「……」 翔は冷静にバットを降った…がそれは空を斬った。 降り遅れだった。 「へへ、一球目はオレの勝ち…だな」 「言っただろ?勝負は三球勝負。これだってまだ通過点だ」 翔はあたかも当然と言うような顔で答えた。 「……その減らず口を今、黙らせてやるよ…」 二球目、インコース高めのストーレト。 流し方向へのファールとなった。 「…大分感じはつかめてきたな」 「もっかい…ストレート…いくぞ」 「…………フ…」 ヒュッ (凄いノビだ……) ガキン! 打球が打ち上がった。 フラフラと舞い上がった球は、 センターとショートの間に落ちるポテンヒットとなった。 「……ボクの勝ちだね」 「ちっ…ま、クリーンヒットはお預けって所か?」 負けず嫌いなセリフを星也が吐いた。 「…フン」 翔は夕暮れの街へと歩き出した。 ・ ・ その日の放課後 1−A教室 「へ?」 「休みだってさ。今日の部活」 祐一郎と星也が教室で何か話し合っていた。 どうやら今日の野球部の練習はないらしい。 「なんだ。そうなのか?」 「なんか監督の具合が悪いんだってさ」 「ふーん。あの監督がねぇ……」 祐一郎が何か考えるそぶりを見せて、続けた。 「んじゃ今日は久しぶりにどっか寄って帰ろうぜ星也」 それに対する星也の返事は早かった。 「あ、悪ィ、オレ今日ちょっと用事あるんだ」 「なんだ。お前最近用事が多いんだな」 その言葉に星也は少し赤くなる。 「そ、そんな訳ないだろ。オレだって年がら年中  会ってる訳じゃないんだからな」 「会ってる?誰と」 祐一郎はほんの少しの疑問を尋ねたつもりだったが、それがマズかった。 「だ、誰でもいいだろ!オレはもう行くぜ祐一郎!」 星也が急いで教室を出た。 「……なんだあの野郎」 祐一郎が星也の影を見つめた。 ・ ・ ・ 「たく…祐一郎のヤツ…」 「あ、星也。早く買いに行こうよ」 「っていうか、何を買うんだ?いきなり"買い物につきあって"なんて…」 「ちょっと荷物が多くなりそうだから…ね、いいでしょ?」 「……まあ、いいけどさ」 ・ ・ ・ 数時間後、大量に荷物を抱え込んでいる星也の姿があった。 その量は、星也の上半身より一回り大きいぐらいだった。 「ちょっと待て、こんなに多いなんて聞いてないぞ……。  バットやグローブにボールに…まあ、ここまでならともかく、  なんだ、これは!ってーかなんで、DVDプレイヤーまで買ってるんだよ?」 「え?だって、そろそろDVDが主流の時代かな…って」 「……オレにも貸せよ」 「え?うん、勿論それはいいけど…」 ガツッ 星也の頭に衝撃が走った。荷物が大きく揺れた。 「イテッ!…オットット…」 「ごめんなさいッ!ボールで遊んでいたら…」 少年が申し訳なさそうに頭を下げる。 「な、なんだ。軟球の野球ボールか…。  気を付けろよ、坊主。オレがやくざのにーちゃんだったら  即刻あのよ行きだったぞ」 「何、おどかしてるのよ、星也…」 「キャッ!」 歩道に悲鳴が響いた。 「!?」 あいにく星也の前には荷物がたちはだかり、いまいち様子がつかめない。 その時、通行人からの声があがった。 通行人「ひったくりだ!」 「すまん、明奈。ちょっと持っててくれ。坊主、ボール借りるぞ」 「え?え?」 明奈の足がよろついた。 星也の右足が上がった。そして、腕がしなり、ボールが繰り出される。 そして、それは30mは先に居たひったくりの後頭部に直撃した。 「ぐあっ…」 ひったくりがその場に倒れた。130km/hは軟球とはいえ出ているのだ。 「ぐっ…くそ…」 倒れているひったくりに星也が近づいてくる。 「ったく…ひったくりなんかするなよ」 「くっ…」 「すいません、警察呼んでくれますか?」 通行人に星也が話しかける 「え?あ、うん分かったよ」 あっけにとられている通行人がケータイ電話を取り出した。 「ほら、荷物持つよ、明奈。帰ろうぜ。」 「あ、あの…」 ひったくられた人が話しかけてきた。 星也と同じくらいの年齢の女の子だった。 「あ、お礼なんていいですよ。  それより今度からはひったくられないようにね」 星也が歩き出した。 「………」 女の子は呆然と星也の背中を見ているだけだった。