我楽多箱 第7話 三人目の三球勝負

−ブルペン− 星也の投げたボールがキャッチャーの構えたミットに治まった。 「ふー…」 「調子良いみたいだな、新井」 「そうですね、これなら今日の入れ替え試験はバッチリっすよ」 ・ ・ ・ 10球目の投げた星也のボールはコースぎりぎりに入っていった。 全球ストレート。全て空振りに仕留めた。 「よし、新井!入れ替え試験合格だ!明日から一軍だ!」 「どうもっす。じゃあ、俺は寄るところあるんで」 星也が帽子を取って顔を左右に振った。赤い髪が揺れる。 上を見上げると、土曜日の空は広く晴れ渡り、雲は汚れなく白かった。 あかつき名物の入れ替え試験。 ピッチャーなら打たれれば減点され、 一定の点数を取れば合格という仕組みだった。 この試験で一軍にならなければどれだけ強い選手だろうと、 試合に出ることは絶対にない。 「おめでとう!星也!」 明奈がネットの裏から拍手を送っていた。 「ああ…お前はどうだったんだ?」 星也がジャンパーを羽織る。 「私はまだ一回しか入れ替え試験受けてないから  まだ二軍…でも、必ず一軍行くからね♪」 「そっか…。ところで、俺今から行くところあるんだけど、行くか?」 「え?別にいいけど…どこへ行くの?」 「神奈川県だよ」 星也が自分のカバンを拾い上げながら言った。 ・ ・ ・ −東海道本線− 「なんで、神奈川県に行くの?東京から神奈川なんて…」 明奈が窓の外に目をやりながら訪ねた。 湘南の海は太陽の光を反射させ、青く光っていた。 「まあ、ちょっと偵察にな」 「偵察?」 「そ、優勝候補って呼ばれている城南高校だ」 「城南高校って…星也のお父さんが居た城南高校?」 「うん。なんか、今年すっげぇ新人が入ったって  父さんも言っていたしさ。だから見てみようかな?って」 「ふ〜ん…まあ、私にもプラスになる事だからいいけどね」 ・ ・ ・ −城南高校− グラウンドでは野球部が激を飛ばし合いながら練習をしていた。 「お、やってるやってる」 星也がグラウンドの横にある、石段に腰をかけた。 「で、その凄い新人っていうのは誰なの?」 「えーっと…?確かセンターだとかいう話だったんだけどな?」 「オイ!そこのヤツ!何をしてる?!」 監督が星也に気付き、大声を出す。 「え?い、いやあの…」 「新井星也ですよ、監督」 バッティングをしていた選手が監督に話しかけた。 「なあ、そうだよな」 声を張り上げ星也にといかける。 「確かに俺は新井星也だ…」 立ち上がった星也が言った。 「俺に投げてみてくれよ。俺の名前は白斗」 「ハァ?」 「俺に投げてみてくれって言ってるんだよ」 バットを星也の方に向けて相手が続けた。 「それとも何か?手の内は見せたくないっていうのか?」 「そこまで言うなら勝負してやろうじゃねーか!」 羽織っていたジャンパーを明奈に渡した。 「ちょ、星也…」 「ここまで言われたら引き下がる訳にはいかねーからな」 「もう…」 マウンドの上に立ってアキレス腱を伸ばす。 「ほら、ボールだ」 弧を描いた飛んできたボールを星也がグラブで乱暴にキャッチした。 「全球ストレートで行くぞ!」 「あらあら、そんな事いっちゃって良い訳?」 「…行くぞ」 プレートに足をかける。 「…上等だ」 第一球を星也が投げた。 バシーン! ミットが大きな音をあげる。 「え?」 捕手は呆気にとられていた。 投げたと思った瞬間にボールはミットにはまっていた。 しかも、自分はミットは1mmもずらしていない。 「…速い。それに正確だな。予告するだけの事はあるかもな」 「二球目行くぞ!」 バシーン! 「…く」 捕手が手を押さえた。 「す、すまん、変わってくれ。手が…」 グラブをはずすと、捕手の手は真っ赤に腫れ上がっていた。 「な…お、俺がこれ受けろっていうのか?」 顔がみるみる青ざめていく。 「大丈夫だ。構えていればそこに投げてくる。後は痛みだけだ」 「ちょ、ちょっと!」 逃げ腰の捕手が位置についた。目がかなり怯えている。 「…かなりの速さだな」 そう言いながらフォームを立て直す。 「だが、もう見切った。次は打つぜ」 「…行くぞ!」 星也の手からボールが放たれた。 カキーン! 皆が呆気にとられた。 星也も、明奈も、他の選手も、そして逃げ腰のキャッチャーも。 ボールは星也の頭を越え、センター前に落ちた。 「俺の勝ちだな」 「…ちっ」 「新井星一の息子ってのもたいしたことなかったな。  新井星一は凄いピッチャーだ。俺も尊敬しているし、  だからこそこの城南高校に入った…」 「……」 「ま、いいか。後1ヶ月で甲子園が始まる。  勿論俺は出るつもり…いや、出る。  あかつきは確か東京だっけ?せいぜい勝ち上がって来て、  ちゃんとした大舞台で俺と勝負しようぜ。  こんな数十人しか見てねーような所で勝ってもしょうがない」 「…首洗って待ってろよ」 ・ ・ ・ −電車の中− 「星也……」 打たれた星也を気遣って明奈が声をかけた。 「…甲子園まで後一ヶ月ある」 力を込めて星也が呟いた。 「…それまでに強くならなきゃならねー」 「星也……」 「この仮は必ず…甲子園で返してみせる…」 この時から、一ヶ月間の星也の特訓が始まった…