我楽多箱第九話「一夏の始まり」
−東京ドーム−
うだるような暑さが広がりつつあるこの時期、
早くもペナントレースはカープと巨人の一騎打ちという形になっていた。
今日からはその巨人−広島三連戦。首位攻防戦と言う奴である。
そして、9時4分。その試合に決着がついた。
『ゲームセット!首位攻防戦第一試合は巨人が制しました!』

「完璧にしてやられたな」
一塁ベースからベンチに帰還する星満に星一が話しかけた。
「この次は負けんよ。明彦も全く成長しっぱなしだぜ」
星満が、革のグローブを外しながらぼやいた。
「まあ、とりあえず明日は勝たないとな。明日負けると
 1ゲーム差になっちまう。そうしたら結構キツイぞ」
星一は手に持っているスポーツドリンクを一気に飲み干した。
冷たい清涼感が体を支配する。
「分かってるって…お、ヒーローインタビューが始まったな」
「お、ホントだな…やっぱり、明彦か。
 まあ、俺等には関係無いさ。明日の事を考えるぞ」
『「今回は無四球無失点を記録した一文字選手です…』
星一と星満は自分のバットをバッグに入れると、ベンチの奥へと歩いていった。
スパイクがベンチ裏の廊下の床とあたり、乾いた音を響かせる。
「よぉ、星一」
「なんだよ?」
足を止めずに星一が答えた。
「どうだよ、星也の方は」
「相変わらずさ。ストレートに磨きをかけてるよ」
「ほーう」
「よくあそこまでスピードが出るとほとほと感心してるんだがな」
「変化球を覚えようって気は無いのか?」
「無いみたいだな、やっぱり、こないだも言ったが痛い目に逢わないと…」
二人は球場の入り口を出た。
後ろを振り返ると、照明が明るく光り、巨人の勝利を祝っているようだった。

−翌日−
「ふわぁ…」
大きなあくびをあげて、星也が昇降口に入る。
「おはよ、星也。朝からあくび?」
明奈がすかさず星也に声をかけた。
「ばかもん、朝だからあくびなのだ。
 昨日は祐一郎の所で野球見てそれから
 結構遊んでたからな…ちっと寝不足だ」
星也が自分の下駄箱から上履きを取り出す。
「え、昨日のカープ戦見たの?」
「ん?まあな。それが?」
「ヒーローインタビュー…見た?」
少し明奈が困惑した表情で話しかけた
「いや、見てない。でも、明彦さんだろ?」
「え?うん…そうだったんだけど…なんで見なかったの?」
「祐一郎の馬鹿が間違って消しやがってな」
「そう…」
「どうしたんだ?なんか、変だな」
星也が明奈の顔をのぞきこんだ。
「え?ううん、なんでもないの!早くいこ!」
そう言って明奈は素早く教室へ向かっていってしまった。

−教室−
「お前さぁ、昨日の巨人−広島戦見た?」
星也が自分の席の近くの奴に話しかける。
「昨日の?昨日のは新聞でしか見てないな。確か1−0だろ?」
「そっか…」
「なんだ?なんかあったのか?」
「いや、なんでも無い。ありがとな」
そう言って星也は自分の席を離れた。
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−地方球場−
ここまで順当に勝ち上がってきたあかつき高校は、
一ノ瀬の言うとおり決勝戦でパワフル高校との対戦となった。

「さて、んじゃちょっとジュースでも買ってくるわ」
「あぁ、試合には間に合えよ」
「おう」
そう言うと祐一郎が立ち上がって、球場の外へ出た。
「さぁーて、俺も試合前までうろうろすっかな…」
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−ロビー−
いつもは応援グッズが販売されにぎわう所だが、
今日はプロ野球の試合で無いため、空虚が広がっている。
その中を向こうから一人の男が歩いてきた。
「あれ?君…もしかして、あかつき高校の人?」
その男が星也に気付いて話しかけてくる。爽やかそうな青年だ。
「ん?まあ、一応な」
「オレの名前は刃波 富呂之って言うんだ。よろしく!」
「お前が、刃波 富呂之?」
「オレの事を知ってるのか?」
「ああ、ウチの部長が要注意だって言っててな」
「ほう、それは光栄だな。ところで、君の名前は?」
「…オレは新井星也っつーんだ」
「あ、君が星也君か。舞を助けてくれたんだよな?」
「舞…?」
一瞬合点がいかない星也だった。
「ほら、ひったくりから助けてもらった女だよ」
「え?あ、ああ…アイツか」
「ところで…そっちに祐一郎っつー奴いるか?」
「祐一郎…?いるけど……あ、そう言えば知り合いだとかゆー話だったな」
「オウ、アイツはスタメンか?」
「ああ、ピッチャーでスタメンだぞ」
「ほう、星也は?」
「オレはセカンドだな」
「セカンドか。まあ、正々堂々試合をしようぜ」
刃波は右手を差し出した。
「ああ」
二人は握手を交わした。
「それじゃあ、オレはベンチに行くわ。じゃあな!」
「オウ!」
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「あ、一ノ瀬先輩」
あかつき側ベンチに戻るとすでに、先輩達は集まっていた。
「ああ、新井。どうした?汐瀬は?」
「ちょっと飲み物買いに行ってますよ」
「そうか…もうすぐ整列が始まるんだがな…
 とりあえず僕たちは行っているから、
 汐瀬君が来たら素早く来てくれよ」
「あ、はい」
「よし、みんな行くぞ!」
「オーウ!」
先輩達がベンチを出たちょうどその時に祐一郎が戻ってきた。
「おう、ギリギリだったな、
 もうすぐ整列始まるぜ」
「うし、んじゃ行こーぜ」
こうして、暑い陽差しが降り注ぐ中、
甲子園への切符を賭けた闘いが始まった。

−一回裏あかつき高校の攻撃−
祐一郎はパワフルの攻撃を三者凡退で切って取り、
あっという間にあかつきの攻撃となった。
ネクストバッターで素振りを二度三度する星也。
パワフル高校のピッチャーが投球練習を終えて、帽子を脱ぎ、汗を拭った。
ゆっくりと星也がバッターボックスに入り、足場を固める。
そして、軽くバットを前後に動かして、構えの体勢に入った。
キャッチャーからサインが出され、ピッチャーが頷く。
しっかりとボールを握り、足を振り上げ、投球モーションに入る。
そして、力と期待を込め、第一球を投げた。
─しかし、星也のバットがその期待を打ち破った。
乾いた音を球場に響かせて、ボールは青い空に飛んでいった。
ライトスタンドに先頭打者HR。早くもあかつき高校1−0と先制。

この事でリズムが崩れたのか、その後、ぼろぼろと失点を重ね、
三打席目の星也に満塁HRを打たれ8−0。
この日星也は5打数2安打で2HR。
一方祐一郎も3の2、翔も4の3と大爆発。
序盤に勝負を決められたパワフル高校にもはや勝つ術は無かった。