我楽多箱第十話「挑戦状」
星也がゆっくりとダイヤモンドを一周してホームベースに帰ってきた。
今日二本目のホームラン、それも今度は満塁で。
8−0。この一本が完全に試合をあかつきの物にした。
そして、9回表パワフル高校の攻撃も早くもツーアウトとなっていた。
バッターは刃波。しかし、それもすでにツーストライクとなっていた。
祐一郎の手からボールが繰り出される。
刃波のバットは空を斬り、ボールがミットに収まった。
「ストラーイク!バッターアウト、ゲームセット!」
その瞬間パワフル高校のベンチからため息が漏れた。
「ゴクローさん、祐一郎」
星也がセカンドからスッとマウンドに歩み寄っていった。
「馬鹿野郎。俺はまだまだ行けるぞ」
「はいはい」
礼をする為に二高の選手がベース付近に整列をする。
「甲子園大会 予選決勝は
 あかつき高校の勝利でした。
 ……礼ッ」
「……あーっしたーーッ!」
パワフル高校の夏が終わった。
泣きながら礼をするパワフル高校の生徒を見て、
その事を胸に重く受け止めながら、星也は頭を深く下げた。

「おめでとう、星也!甲子園だね」
ロッカーで片づけを終えて、廊下を歩いていると明奈が話しかけてきた。
「…ああ。今まで俺等が勝ってきた選手達の為にも、
 負ける訳には行かないな」
「そうね。私も今は応援しか出来ないけど、
 いつかは甲子園に出たいなぁ…」
明奈が伸びをしながら楽しそうに話す。
「なーに、明奈ならすぐ出れるって、
 力は不足していても、バットコントロールや
 力の伝え方が上手いし、送球だって、とってから投げるまでの
 動作も短くて方向も正確だからな。不足は補えているよ」
「そう言って貰えると嬉しいんだけどね…」
「さて…行くぞ」
「行くぞ…って何処に?」
「決まってるだろ。横浜スタジアムだ。
 2時から神奈川県大会決勝戦だからな。
 まあ、城南が勝つだろうが…」
その頃時計は12時を少し過ぎていた。

−横浜スタジアム−
県大会の決勝とは言え、かなりの観客数だった。
内野席のほとんどに客が入っている。
試合は3回のウラ、城南高校の攻撃。
すでに1−6と城南が大幅にリードしている。
ランナー1、2塁でバッターは白斗。
その姿を星也と明奈はレフトスタンドから見ていた。
レフトスタンドにはほとんど人は入っていなく、
星也と明奈の周りに人は居なかった。
ふと、白斗が星也に気付いた…様に星也には見えた。
構えに入る動作を止めてレフトスタンドを見上げている。
カウントはノースリー。
フォアボールを避ける為に投げた甘い球を白斗は逃さなかった。
カキーン!
球場に音が鳴り響く。
それと、同時に歓声も沸き上がった。
「これは…入ったな…」
鋭い打球がレフトスタンドへ走っていく。
「…!」
パシィッ!
とっさに出した右腕で星也はボールをキャッチした。
「…飛んだ挨拶だな…」
星也は少し赤く腫れた右手を見ながら言った。
「飛んだ挨拶って…狙ってやれる訳無いじゃない!」
「いや…狙ってやったろうな…
 狙ってやんねー限りアイツの打球がここに来るなんてありえねーよ」
丁度白斗がセカンドベースを回った所だった。

1−9。城南高校の甲子園行きがほぼ決まった。
試合は6回で1−11と城南のコールド勝ちとなった。
「やっぱり勝った…か」
「白斗君…守備が凄い上手いね」
「ああ、ピッチャーはそれほどでも無いが…
 アイツの守備のうまさで5点は助かってる。
 そんで、バッティングで5点はとってるから…
 事実、この試合の勝利は白斗のおかげだな」
「私も…戦いたかったなぁ…」
メンバー入りしてない明奈がそっと呟いた。
「なーに…コッチが勝てばアッチだって来るさ。
 選抜ですぐに戦えるだろうな」
「……」
夏の夕暮れ。ヒグラシが悲しげな声をあげていた。

−星也 自宅−
「ただいま〜…って親父また家に居るのか」
「おーっす、星也君。お帰り」
星一はビールを片手にテレビで野球観戦をしていた。
巨人vsパワフルズの試合だった。
「また、球団にわがままでもいったのか?」
「まあ、そんなトコ」
「あんまりわがまま言い過ぎてクビになるなよ?」
「わーってるって。その辺はキチンとわきまえてるよ。
 それよりも星也。今日勝ったみたいだな」
「当然だろ。一応日本一目指してるんだからな」
「ほーう、それはそれは…」
その時TVから大きな歓声が沸き上がった。
『ストライク!バッターアウト!ゲームセット!
 抑えの切り札日隆生、三人連続で三球三振です!
 3−1でパワフルズの勝利!』
「やるなぁ…小杉」
星一がボソと呟いた。
「…へ、小杉?あの数年前にプロ野球界から追放された…?」
「ん?いや、なんでもない。コッチの話だ。
 …パワフルズも無くなっちまうのかなぁ…」
「ああ、オーナー会社の経営が傾いてるんだっけ?」
「ああ。それも相当にな」
「…寂しくなるな」
「黄金期のパワフルズは強かったぞ。
 あの時だけだ。三者連続HRを喰らったのは」
「あれ?そんなに喰らった事あったのか?」
「ああ。アレは…5年目だったかな。
 優勝をかけた大事な試合で打たれたよ。
 …あの勢いは止められなかったな」
「ふうん……」
テレビでは日隆生のヒーローインタビューが始まっていた。

そして、甲子園初戦の日がやってきた。
あかつき高校の前にはすでにマイクロバスがやってきていた。
「一ノ瀬先輩おはようございまーす」
星也が大きな荷物をマイクロバスの荷物入れにつめこんだ。
「ああ、おはよう。今日はお互い頑張ろうね」
「はい!」
「あ、星也…祐一郎は?一緒じゃないのか?」
「え?いや、一緒じゃ無いんだが…どうかしたのか?…まさか」
「ああ、来てないんだ。アイツ」
「はぁ!?」
「な、なんで祐一郎がいないんだ?」
「時間間違えちゃったのかな?」
後ろにいた二人がおろおろして会話に入る。
「マズいな…俺もさっき着いたばっかりだし…
 あいつの家まで行ってたら俺まで遅れちまう…」
「電話は?」
「さっきやってみた…ドライブモードになってた。
 ……寝てんだろうな」
星也が頭をかきながら答える。
「どうしよう…?祐一郎がいないだけで
 かなり大幅な戦力ダウンになっちゃうぜ」
「新井!早くバスに乗れ!!」
遠くにいた千石監督が大声で星也を促した。
「仕方ねぇな。先に行って待ってるしかないな」
そんな会話をして、三人はバスに乗り込んだ。