我楽多箱第十一話「アイツはバカ」
−バスの中−
「おはよう、星也君」
翔が爽やかな顔を披露してバスに乗り込んできた。
「お、猪狩。おはよう。どうだ?コンディションは」
「何を言ってるんだ。天才の僕にコンディションは関係無いのさ」
翔は相変わらずの口調でそう答えた。
「ああ、そうだったな。スマンスマン」
「ところで…祐一郎はどこにいるんだい?」
翔がキョロキョロしながら訪ねた。
「え…いや…まあ、アイツは…その」
「その…なんだ?」
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「ま、まだ来てない…!?」
「オウ、完璧来てない。多分寝てるぞ、アイツは」
星也は先ほど自販機で買った烏龍茶を一口飲んだ。
「はぁ、なんだか頭痛がしてきたよ…」
「だいじょーぶだって、アイツなら追いつくよ」
「追いつくって…どうやってだ?」
「アイツなら…そうだな…バイクかな?」
「………無免だろ、彼は。
 ……この際はっきり言っておこう
 彼はバカだ」
一瞬間をおいて猪狩が話し出した。。
「な、なんだよいきなり…」
「常々バカだとは思っていたんだが……。
 まさかここまでとは思わなかったよ。
 甲子園行きのバスに乗り遅れるんだよ?
 完全に純度100%のバカだ」
「は、ははは」
星也が乾いた笑いを漏らす。
「(ひ、否定できねー…)」
「全く…。呆れたものだよ。
 信じられない」
「猪狩」
星也が口を開く。
「忘れてねーか?あいつは普通じゃねーんだ。
 いろんなイミでな。祐一郎はこうやって
 ずっと間抜けなまま済ますなんて男じゃない。
 きっととんでもねーことをやってのける。そんな男なんだよ」
「ふっ。彼には無理だ」
「…そうかな?」
「まあ、彼は普通じゃない。そこは認めよう。
 しかし、僕にはとても何かをやってのける男には見えない」
「まあ、お前は祐一郎の事をよく知らないからな」
「よく知らなくても分かる。彼はバカだ」
「中学時代のアイツは格好良かったぜ、
 響介もいたかな…」
「響介?城戸響介かい?」
「あれ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、一回戦に当たる矢吹高校の選手だよ」
「へ?」
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「さて…もう愛知県を通りすぎたけど、まだ彼は来ないねぇ…」
「まー、アイツの事だから、無免で捕まったか、
 ガソリン切れで立ち往生したか…
 まあ、どっちにせよ、アイツなら来るだろうけどな」
「いや、彼は来れないね」
猪狩は当たり前の様に反論をした。
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しかし、星也の期待を裏切るかの用に、
すでにバスは兵庫県に入っていた。
「…もうすぐだな、新井君」
バスの中では二人が話を続けていた。
「あと十分ぐらいか……」
「案外まだ寝てたりしてね、彼」
それを聞いて、星也が携帯を取り出した。
星也は祐一郎の番号を押して、耳に当てた。
「…………」
「…どうなんだい?」
「…ドライブモード。寝てる可能性もあるってこった…」
星也が不満そうな顔をして、携帯を切った。
「はは。君は汐瀬君を過剰評価しすぎなんだよ。新井君」
「そんなことはない」
星也が先ほどよりも口調を強めて言った。
「あいつはどんな障害があっても、
 絶対に夢をつかむ男だ。
 絶対に過剰評価なんかじゃない」
「本当にそうだと良いんだけどね」
そう言い終わると、
猪狩は窓に肘をついて、外の景色を見た。
「祐一郎……大丈夫だよな…?」
星也が祈るようにそう言った…
その時、ガクンとバスが揺れた。甲子園についたらしい。
「あーらら、ついちまったよ…祐一郎、早く来いよー!」
「星也君、まだ祐一郎君は来ないのかい?」
「相変わらず携帯はドライブモード、来る気配も無いッス」
「そうか…」
一ノ瀬との話を終わらせて、星也は対戦表と、
各校の選手表を照らし合わせていた。
「…本当だ、一回戦は矢吹高校…響介の名前も載っている…」
「しょうがないな」
一ノ瀬が困惑の表情を浮かべて言った。
「もう、選手登録をしなければ行けない時間なんだ」
「あの…バカ…ッ…」
星也が誰にも聞こえないような小さな声でいった。
暑い陽差しと蝉の声はいつもの様に甲子園の街を埋め尽くしていた。

−選手控え室−
「わりぃ、ちょっと俺出てくるわ」
「ど、どうしたんだい星也君?後一時間で試合が始まるよ!」
「祐一郎が来てねーか見てくるだけだ。
 まあ、ちょっとヤボ用もあるけどな…」
星也が控え室のドアノブを回した。
「ヤボ用?」
「ああ、旧友に会ってくる」
「旧友?城戸響介の事かい?」と
星也に訪ねようとしたが、すでに星也は部屋を出ていってしまった。