我楽多箱第十四話「コーラ」
ユニフォームからジャージに着替えて、
星也はすぐさま響介を探し出した。
響介は自動販売機の近くを歩いていた。
「ナイスファイト」
「気休めならきかねーぞ」
星也に気付いた響介は再び顔を下げて言った。
「人がせっかく誉めてやってんのにオメーは…」
「そうか、済まなかったな」
響介はそう言って自動販売機の横にあるソファに乱暴に腰を置いた。
「ふー…敵わなかったな」
一呼吸置いてから響介が喋りだした。
「そうでも無かったぜ。負けるかと思った」
「ほう、意外だな。お前からそんな言葉が出るなんて」
沈黙が訪れた。自動販売機から漏れている音が辺りを支配する。
「最初の打席でHRを打たれた時は…なんか、力を感じたな」
「…力?」
「ああ。威圧感を受けた感じだった」
「ほう…」
響介はスッと立ち上がった。
「飲むか?」
財布から取り出した120円を自販機に入れながら響介が訪ねた。
「いや。いい」
ピッ
ガタン。
「まあ、とりあえず俺の今年の夏は終わっちまった…って事か」
プシュッと小気味の良い音と共にコーラが響介の喉に吸い込まれて行く。
「ってーか、お前まだコーラなんか飲んでるのか。
 身体にわりーぞ」
「まあま、堅い事言うな。好きなんだからよ」
そう言えばそうだった。思い返してみれば、
響介が何かを飲んでるシーンはいつもコーラだった気がする。
「ふむ…そういえば…な」
「星也…」
「ん?」
「勝てよ」
響介が軽くコーラを持つ右腕を前に付きだした。
「何をいまさら」
「そう言うと思ったよ」
響介がフッと微かな笑いをこぼした。
「さて。俺はそろそろ旅館に戻らねーと」
「おう。じゃあな。また」
"また"の意味は勿論星也にも伝わった。
「…ああ」

−旅館−
「ただいま〜っと」
「遅い。何やってたの?」
旅館に入るとすぐに明奈の顔が飛び込んで来た。
「ちーと、相手側の4番バッターに挨拶を…ね」
星也が足も止めずに歩き出すと、明奈もそれに合わせて歩き出した。
「城戸君だっけ?」
「そーそー」
「……圧されてたでしょ」
星也の足が止まった。
星也「……」
「あら、気付かないと思った?
 腕がふれてなかったもんね。城戸君の時だけ。
 威圧感でも感じたの?」
「…参ったな、お見通しって訳か。ま、そんな感じだ」
星也が軽く頭をかいた。
「…て、アレ。祐一郎は?まだ来てねーのか?」
星也が部屋に入ってふと想い出した。
「あ、実は…」
・
・
・
「や、宿にも泊まれねー?」
ひきつった顔で星也が呟いた。ほんの少しの同情もふくめながら。
「さっき祐一郎君来たんだけどね…
 監督に追い返されちゃった」
「…ったく。遅れてくるアイツもアイツだが、
 宿にも泊めてやらねー千石もどうかしてやがるぜ」
星也がゴロンと大の字になって部屋にころがった。
「…で、アイツは?」
寝ころんだまま訪ねた。
「ホテルに泊まってるって」
「へー。よく金があったなぁ」
「ホントに…ね」
「っと、そろそろ夕飯の時間だな」
星也が部屋に備え付けの振り子時計を見つめた。
時計の針は丁度6時をさしていた。

−食堂−
すでに食事を開始してから30分がたっている。
もう食事を終えた選手がほとんどだった。
「で、星也君」
翔が箸を置いて、星也に話しかけてきた。
「ん?なんだ?」
星也は最後のご飯をほおばりながら答えた。
「祐一郎君は…どうしたんだい?」
「今頃ホテルじゃねーのか?」
「…と、いう事は試合にも出れないっていう事か」
「そうだな。ったく、アイツも…」
「新井!電話だ!」
千石が食堂に顔を覗かせ叫んだ。
「おっと、噂をすれば…猪狩、わりぃ。皿片づけといてくれ」
「え!?ちょっと!」
しかし、翔の言葉を聞かずに星也は行ってしまった。
「まったく…」
仕方なく皿を片づけだした翔に先輩達が話しかけた。
「おう、翔。麻雀できるか?」
「い、いえ。僕は…」
「なんだよ、できねーのか。やっぱ祐一郎がいねーとなぁ…」
「………」
翔は呆れ顔でその場を去った。
「…彼は先輩達とどんなコミュニケーションを取っているんだ?」
そう言って少し乱暴に皿を片づけた。
席に戻るとすでに星也が戻っていた。
「おーす。翔。ゴクローサン」
「今度からは絶対運ばないぞ」
「なんだよ、堅い事言うなって」
「まったく………僕は部屋に戻るよ。じゃあね」
「へーいへい」
翔が部屋に戻るのを見届けて星也はゆっくり立ち上がった。
「……ホントに出れねーのかよ」
星也の目にふと止まったTVでは
今日の試合が丁度放送されている所だった。
「…ったく」
こっそりと、誰に言うわけでもなく呟いた。
そして、その後あかつき高校は特に弊害も無く、
決勝戦への切符を手にしたのだった。