我楽多箱第十六話「秘密のチカラ」
『セーフです!城南高校、早くも一点を先取しました!』
土を払い白斗が人で溢れ帰ったベンチに引き上げる。
マウンドに駆け寄った二宮が星也と会話している所だった。
「しゃーねーよ。まさか走って来るなんてな」
「わかってますって…乱れたりはしませんよ」
「なら、いいんだが…」
そして、その言葉通りに城南のバッターを次々に三振にしとめ、
4回ツーアウトの場面に再び白斗の打席がまわってきた。

−広島市民球場−
「で、なんで打たれるって分かったんだ?」
そう言うと星一はカラッポになった缶をゴミ箱に投げ入れた。
「バッテリーは秘密兵器を持っている」
「秘密兵器?」
「ああ。決め球見たいな物を…だ。
 まあ、それは多分ツーストライクにならないと使わないんだろうが」
「変化球か?」
「それは無いだろ」
星満もまた、カラッポになった缶をゴミ箱に向けて投げた。
が、缶はゴミ箱の縁にあたり、外に落ちてしまった。
大きな歓声がノイズと共にわきあがった。
カウントがツーワンになったのだ。
「星満。お前の言ったとおりなら…」
「…ああ」

「やっと…ツーワンか」
星也が汗を拭い帽子を被りなおした。
「これで…ようやく使える訳だ」
プレートに足をかけ、投球動作に入る。
少し大振りなフォーム。
白斗がそれに気づいた。
「…しかけてくる…!」
そして繰り出された球。
白斗は自分では目で追いかけて居るつもりだった。
いや、確かに追いかけていた。
「フツウのストレート…?甘いな…」
迷わず白斗がバットを振り始めた。
しかし、白斗はふとボールが見えなくなった。
そして、星也のボールは白斗のバットよりも早くミットに収まっていた。
『空振りー!星也君二打席目は白斗君をきっちり抑えてチェンジです!』
「…俺が…空振り?」
バットをギュッと握りしめ白斗が星也の方を睨んだ。

−広島市民球場−
「…今、速かったか?」
星一が星満の方を振り向いた。
こういう事は星満の方が正しい分析をしてくれると星一は知っているからだ。
「いや。スピードガンは149km/h…別段速いっつー訳じゃねーな」
いつも通りの冷静な分析。
最もそれだけで疑問が晴れる訳が無かった。
「でも、白斗は空振りをした」
「うーむ……そう言えば少しフォームが大振りだったな」
「ちょっとだけだがな」
「少し体をひねる感じだったが……まさか」
「……?」
「……ジャイロボール…」
「……!」
「とんだものをひっさげてきたな、アイツ等」

城南ベンチにもざわつきが起こった。
白斗は一年生でありながらも打率はチーム1だし、
三振数は0に等しかったからである。
その白斗が空振りをしたという事実に驚かずにはいれなかった。
「白斗…どんな球だった?」
監督が白斗に話しかける。
その顔はとても怯えていた。
「…ノビが…ね。凄いんですよ。ノビが」
「…単なるストレートでは無いって事か?」
「ええ」
「打てるのか?」
「勿論」
自信ありげに白斗がバットを片づけた。
「人間の放る球です。打てない訳が無い」
「そうだったな…」
「監督」
「ん?」
「グローブ」
白斗がベンチにおかれているグローブを指さした。
「ああ、守備だったな…」
あわてて監督がグローブを手にした。
目線がおぼついていない。
「監督」
「ん?」
とまどったように監督が返事をした。
「もっとみんなを信じたらどうですか?」
「……」
「じゃあ、行ってきますよ」
「…信じる…か」
途端に寂しくなったベンチの中で
監督がボソッと呟いた。

そして、五回。
星也に乱れが生じた。
四球を2つだしてからヒットを打たれ、2−0
ワンナウトながらランナーが三塁の場面でバッター白斗を迎えていた。
一球目をストレートでストライク。
二球目はジャイロボールでストライクを。
そして、投じた三球目。
アウトローいっぱいのジャイロボールを白斗がかすめた。
ふらふらと上がった打球が野手の間に落ちてポテンヒット。
ランナーが帰還し、ついに3−0となってしまったのだ。

−広島市民球場−
「きついな」
麦茶を飲み干し、星一が呟いた。
苦みと冷たさが体の中を走る。
「3点…か」
星満もまた、麦茶を飲み干した。
「ジャイロボールに軽くとは言え当てられたか…」
「……」
星満はTV画面をジッと見つめていた。
思い詰めたような表情で。
「…どうかしたのか?」
不安な気持ちを抑えきれず星一が訪ねた。
「…激しすぎる」
「え?」
「あの、ジャイロボールは、スタミナ消費が激しすぎるんだ」
星満が顔の向きを星一の方へ動かした。
「……」
「体全体の動きをフルに活用しなければ
 生まれないジャイロボールは…
 まして、星也はマトモに使うのは今回が初めてだ。
 完投する余裕は…はっきり言って無い」
「オイオイ、待てよ。
 今のあかつきにはピッチャーが他にいないんだぞ…
 一ノ瀬は今大会で一回も投げていないし…
 ってことは……」
星一がTV画面に目を落とす。
星満もそれに倣った。
TV画面では星也が三振をとって5回の守りを終わらせた所だった。
「間違いなく…9回には捕まる」
星満が誰とも無しに呟いた。