ポケ編第1話「日隆生の中の小杉」
今、一人の男がインタビューを受けていた。
この選手はスター選手の小杉優作。
広島東洋カープのピッチャーだ。
今日の試合も大活躍だった……
実況『試合終了〜!カープ、14−0で勝利です!
   ルーキーの小杉大活躍!
   被安打2、奪三振数18の大勝利です!
   二位巨人とのゲーム差を5に広げました!』
カープの選手がベンチに戻っていき、小杉がヒーローインタビューを受けた。
星一「お疲れさん」
星満「うーっす」
星一「今日は一本しか出なかったな。しっかりしろよ」
星満「まあ、こういう日だってあるさ。
   そういうお前こそ、早く怪我を治せよ」
プロ一年目の日本シリーズで肘を壊した星一。
今は完治してリハビリに励んでいるが、たまに球場に顔を表していた。
星一「医者の話だと、あと一年あれば元の状態に戻るらしい」
星満「じゃあ、再来年からは登板可能って事か?」
星一「まあ、そういう事だな。さって、帰るぞ」

−同じ球場の廊下−
凡田「日隆生君〜、今からミーティングでやんすよ」
日隆生「うるせぇな!
    そんなメンドクサイものに
    オレは参加しねえんだよ」
日隆生が近くにあったゴミ箱を蹴ると、
中のゴミが大きな音と共に出てきた。
凡田「ええ〜?!
   クビになってしまうでやんすよぉー!」
日隆生「なんなんだよ、ついてくんなよぉー!
    ふん、どうせオレぁお荷物選手だよっ!」
そう言い残し日隆生は走っていってしまった。

記者「あ、新井選手来ていたんですか!?
   凄かったですね、今日のカープは!」
記者が星一と、星満と、小杉を囲んでいた。
記者「今年三年目の星満選手は五打数五安打、
   更に小杉君は完璧な完封劇!
   怪我で脱落した新井選手の替わりにもなって
   若い選手が原動力となっては優勝は決定ですかね?」
星一「ま、そうだといいんだけど…
   巨人とだって、まだ5ゲーム差。
   巨人には、猪狩もいます。
   いつその差が縮まったっておかしくないんじゃないんですか?」
記者「それはまぁ……そうなんだが。でも、このまま行けば」
星一「人生にこのままって事はないんですよ。
   にしても、コイツらがあまりにがんばっちまうんで、
   俺も早く怪我から復帰したい所ですよ」
記者「リハビリはいつまで続くんだい?」
星一「医者の話では再来年には投げられるとの事です」
記者「再来年か…長いね」
星一「そうです…ね、でも、これからの事を考えれば
   決して長い時間じゃないですよ」
星満「さ、星一。さっさと飯食おうぜ。
      まだ昨日の晩からなんにも食ってないんだ、オレ」
星一「馬鹿やろ、そんなんだから1本しか打てねーんだよ
   じゃあ、そういう事で。じゃあな、小杉。」
二人は選手ロッカーに入っていった。
小杉「おやすみなさい……じゃ、ボクもこれで。
   今からテレビ局に行かなくちゃ駄目なんです」
小杉は記者達に別れを告げると、足早に走り出した。
ガツッ!
目の前が真っ暗になって小杉の意識は遠のいていった。
・
・
・
凡田「…………くん。日隆生君」
小杉「ん?な、なんだ?」
病院の様だった。ベットで寝ている。
慌てて体を起こして周りを見回した。
凡田「あ、気が付いたでやんすね」
見知らぬ男が目の前で喋っている。
小杉「えーと……君は誰だい?」
凡田「なに言ってるでやんす。オイラ凡田でやんすよ」
小杉「へ?……凡田?」
全く訳が分からないまま、少し視線を逸らすと、
そこには病院備え付けのテレビがあった。
テレビには小杉が写っていた。
小杉「あれ、オレがテレビに出てる…」
凡田「あれはカープの小杉でやんすよ!」
小杉「え?」
慌てて小杉はベットから飛び出た。
小杉「小杉はオレじゃあ……?」
凡田「何いってるでやんすか!
   あんたは、万年二軍でモグラーズのお荷物選手の
   立ヶ析日隆生(たちがせき ひりゅう)君でやんすよ!」
小杉「は?
   お、オレは……小杉……だろ?」
凡田「まだ言うでやんすか!
   あそこの鏡で自分の顔を見てくるでやんす!」
凡田は洗面台の鏡を指さした。
鏡を覗いた。しかし……そこに…小杉の顔は無かった。
小杉(以下日隆生)「え?えええーー!?
          誰だよコイツー?!
          コレがオレの顔……?
          嘘だろー!!
          オレは小杉だろーー?!
          オレはスターなんだ!」
凡田「はいはい、それくらいにするでやんす」
凡田が呆れ顔で止めに入った。
凡田「さあ、元気になったんだから馬鹿な事
   言ってないで、さっさと退院するでやんす」
全く訳が分からないまま、オレは病院を後にした。
・
・
・
その翌日
凡田「日隆生君、おはようでやんす」
日隆生「………おはよう」
凡田「元気ないでやんすね?
   確かに現実はつらいでやんす。
   でも、そこから逃げ出さないで
   今日も元気に練習するのでやんす!
   じゃ、先に行ってるでやんすよ」
凡田は部屋から出ていってしまった。
日隆生「……廊下でぶつかった時に、
    オレと日隆生ってヤツの体が
    入れ替わったとしか思えない。
    でも、こんな話、誰も信じないよな。
    他にすることもないし、野球の練習でもするか。
    どうせ、夜までのガマンだ」
日隆生はその日、一日をランニングで済ませる事にした。
・
・
・
−その夜−
日隆生「おい、ちょっと待て!」
小杉(元日隆生)「!………なんの用だい」
日隆生「とぼけるな!オレの体を返せ!」
小杉は笑って言い返した。
小杉「いいか、オレがあんたの体を
   盗んだわけじゃないんだ
   あくまでもあれは事故だろ」
日隆生「でも、オレのふりをしてるじゃないか」
小杉「ああ……あんたもな」
日隆生はとまどった。
日隆生「え、いや、それは……
    こんな話、誰も信じないからしかたなく……」
小杉「それに、一体どうやって元に戻すつもりなんだ?」
小杉が更に言い返してきた。
日隆生「うっ!だ、だから、それを一緒に考えよう」
小杉「やだね」
小杉は冷たく言い放った。
小杉「オレはこのままの方がいいや」
日隆生「じょ、冗談じゃない!」
日隆生が血相を替えて抗議した。
しかし、拳が彼を止めた。
小杉「あきらめなよ、今の体じゃ、喧嘩したって
   オレの方が強いんだからな」
××「あら?」
急に女の人が現れた。
××「そこにいるの、優作さん?」
小杉「ああ、綾華さんか。
   ちょっとヨッパライにからまれたんだ」
日隆生「(綾華?…球場によく応援に来てくれた俺のファン……)
    オイ、ちょっと待て!まさか、彼女に……」
再び拳が飛んだ。
小杉「あんなのは相手にしないでさっさと行こうぜ」
綾華「え?ええ……」
二人は去っていった。
日隆生「……チックショー!今に見てろ!とりあえず!
    しばらくは日隆生として暮らしてやるが……覚えてろ!」
この日から、小杉の日隆生としての生活が始まった。
・
・
・
−二軍練習用グラウンド−
凡田「あれ、水木さん、復活したんでやんすか?」
水木「ああ、ケガの方はな……だが、当分二軍暮らしだ」
凡田「水木さんは一軍と二軍の行き来が激しいでやんすからねぇ」
水木「うるさい、ずっと二軍のお前に言われたくない!」
凡田「それもそうでやんすけど……日隆生君よりかはマシでやんす」
水木「ああ、そうだな。最もクビに近いかもな」
日隆生「ちょ、ちょっと待って下さいよ。オレから
    野球を取ったら何にも残らないんですよ!」
水木「アホか、お前は。ここにいるヤツは全員そういう奴らだ。
   まあ、ここに残りたかったら、まず実績を残すんだな」
日隆生「………」
・
・
・
−夜道−
日隆生「さっきから、誰かにつけられているような
    気がするな……オイ、誰だ!」
××「あ!」
そこには、女の子が一人で立っていた。
日隆生「(誰だ……コイツ……間違いなく日隆生の知り合いだから
     まるっきり知らないっていうのも不自然だな……)
    なんの用だ?」
××「え?えーっと……その……おやすみなさい!」
そう言い残して、彼女は走って行ってしまった。
日隆生「なんなんだ、今の子は」
××「いやー、相変わらず冷たいね、おまえって」
金髪の男が話しかけてきた。
日隆生「(また、へんなヤツが現れたな)
    えーと、あなたは?」
××「ありゃ、記憶喪失の噂は本当か。
   塚本だよ、おまえの親友。
   最近、お前が遊びに来ないんで、
   心配になったんだよ。
   恵理のヤツも、最近おまえがかまってくれないんで、
   様子を見に来たってとこだろう。」
日隆生(恵理……さっきの子か)
塚本「まあ、別にお前がどうなろうと知ったこっちゃないが、
   貸した金が返して貰わないとな」
日隆生「……借りてない」
塚本「ちぇっ、記憶喪失だったら
   だませると思ったんだがな。
   キシシッ、それじゃ、またな!」
塚本も、夜の道を走っていった。
日隆生「日隆生には妙な友達が多かったんだな……」
・
・
・
−二軍用グラウンド−
監督が日隆生の名を呼んでいた。
監督「日隆生、日隆生!」
日隆生「あ、はい!(まだ、この名前に慣れないな……)」
監督「この前の事故で、記憶が混乱してる
   って聞いたけど、大丈夫か?」
日隆生「はい、なんとか…ええと、あなたは?」
監督「オイオイ、本当に大丈夫かよ?
   二軍監督の古沢だよ!」
日隆生「あ、そうでした」
古沢が疑惑の眼差しを向けた。
古沢「…その様子だと、コーチたちの事も忘れたとか
   言うんじゃないだろうな」
日隆生「いえ……あの、大丈夫です」
これ以上疑われてはいけない…と日隆生は思った。
古沢「そうか、それならいいんだ」
古沢はそう言い残して、別の場所へ行った。
小杉……いや、日隆生の苦悩はこれからが本番だ。